すべてがFになる 森 博嗣

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

全く接点のない二人…いや、三人から同じタイミングで勧められたので、(SFで)重い腰を上げて購入。一読。

(ややネタばれ)

良い意味でも悪い意味でもベストセラーらしい本だとは思う。


犯行や複雑な状況は読者の頭を捻らせるし、読書スピードが落ちるような小難しい表現や論理性もなし。キャラは誰も彼も絵になるほどイメージ豊かで感情投入もし易いし、魅力的。
状況のために用意された感のあるキャラ、パッチワーク的な場面の転換などといった印象も、たぶんこれがデビュー作だからということなのだろうか。総じてこなれた作りではなかった感が強い。本当は第4作だったのを、デビュー作は派手な方がいい……ということでこれを出したという事情を聞いて納得はしたものの、それとこれは別問題。長編、連作長編向きのキャラを一部完結作として出したせいかは分からないが、もどかしい印象を受ける。


多分読者の間で話題になったであろうパソコン系の小道具が、まるで「物語を書くために付焼刃的に覚えました!」という風の違和感を覚えるのは何故だろう。この作者が工学畑だから仕方のないことなのか…? しかし研究室や研究生の生活感や考え方は、色眼鏡がかかっているかもしれないがなかなかに現実感がある。それなのにも関わらず、現実の情報機器の固有名詞が出てきて、それが非常に事件のトリックに深くかかわっているのにも関わらず、しかしその使い方が「便利な小道具」で終わっていることがとにかく気になる。別に情報機器である必要がないのだ。この物語だと。

まさか、これを持って出版社が「理系ミステリ」などとうたっているのか? それっぽい小道具がでてくるから? 論理性に文系も理系も関係ないのに、ミステリという論理性重視の物語構造を読みながら、「論理性=理屈っぽい=理系=パソコン」という連想をするような読者を対象にしたキャッチコピーだから? いや。そこはどうでもいい。

コンピュータを主眼に置いているのに、そこで突っ込みどころが満載だと興ざめするものだが……(まぁ、「7年間誰もソースを見ていないOS」や「メール送信だけが都合良く使えなくて、50人ものエンジニアが普段使っていて誰もpathが分からない、SMTPじゃないメールのプロトコル」という、そういう仕様の”モノ”=ガジェットが存在すると思えば、特に読み進めるのに支障はない。……苦しい。)

「全てがFになる」のFも、いやー……分からんだろう。分かっても、トリックに結び付かないだろう。ネタが分かっても、全く感銘を受けなかったぞ。それともあれか。最近(?)のミステリはトリックを考えさせることが主眼ではないのか? これは、あまりミステリは読んだことがないからこそ適当に言えるのだけれど。


ただ、作者にとってこの研究所の環境や真賀田四季犀川という人物がたまらなく好きで、愛していて、同時に嫌いなんだろうなぁ、という思いは文中からよく伝わってきた。理系とか、文系とかみたいに分類するのは大嫌いだが、よくここまでステレオタイプな理系ばかりを登場させたものだ……
続きを読んでみたいか、と聞かれたらもちろん『Yes』。




60点