AΩ(アルファ・オメガ) - 小林泰三

ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

遥か遠望の宇宙に住むプラズマ生命。その固体の一つである"ガ”は、"影の生命”を追って地球までやってくる。ところが追跡中に偶然にも飛行中の旅客機に接触、旅客機は大破炎上。搭乗員全員の命は絶望かと思われた。

その旅客機に搭乗しており、"確かに死亡した”諸星隼人は、恋人の沙織の前でゆっくりと体を起こす……失った左腕が元通りになった姿で。


「超SFハードアクション」と銘をうたれてはいるが、その内容は……
小林泰三を、計算高くロマンチックなハードSF作家だと思っていた認識を、さらに(良い意味で)打ち壊してくれた作品。



「影を追跡中に人間の旅客機に接触。」
「諸星隼人。」
「数分間しか変態できない。」

このキーワードから想像できるものは一つしかない。そう、我らが光の巨人ウルトラマンだ。デュワッ!


でもその戦い方は、テレビの中で活躍していたウルトラマンのようなスマートなものではない。無関係の人は巻き込む、やたらとグロテスクな攻撃描写、共生関係にある諸星隼人へのダメージ。アルファオメガ教団という脈絡も存在意義も不明な集団とのスプラッタな戦い。

普通の会話が通じない人々。感情移入が出来ないキャラクターたち。主人公すらも、異質。何もかもが不気味な世界に、現象。怖いというより、気持ち悪さが全面に押し出される。序盤のプラズマ生命体の描写が非常に煌びやに写るのとは対照的な本編の異質さ。何を主軸に物語を読み進めればいいのか戸惑うこともしばしば。
この作品をどう捉えるかによって、印象は人によって幾分か異なることになるのではないか。少なくとも、素のままではグロテスクな作品という感想以上の思いは出にくいであろう。
序盤のプラズマ生命体の生態に興味を惹かれた私は、作品全体をファーストコンタクトものと捉えたのでかなりSF的な視点で読んだのだが。意識的に見方を変えるとまた違った感想が出てくるかもしれない。


結局、どんなに言葉を重ねても
「ハードSFに相応しいプラズマ生命体の描写を前菜とした、主人公と「寄生獣」関係となった「ウルトラマン」が「デビルマン」よろしくの展開を迎えるスプラッタアクション。」
という一文で作品を遺憾なく語れる気がしないでもない。そうとしか考えられない。


"変”な小説を読みたい人にはお勧め。……お勧めなのかな?これも人を選ぶ。


70点。