「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」

待ちに待ったBD版の二作が発売されたので、買った。カリブの海賊以来の久々のBD。

新海 誠の作品は「ほしのこえ」「笑顔」やminoriのOP系はよく見ているが、初長編であるこの作品はノータッチだった。


一見して、そして最後まで圧倒され続けるのがその映像。新海と言えば背景だが、その緻密さとデフォルメ具合の妙は長編になっても色褪せない。90分超えの長編ということで「どこで静止しても一枚絵として見られる」レベルは、さすがに常に維持するのは難しいとは言え並み居るアニメ映画の中でも群を抜く。光の表現がこれほど上手いものはそうあるまい。
話は平凡。セカイ系の極みであった前作を幾分マイルドにし、世界情勢が横たわり、第三者の視点が登場し、SF的・ミリタリー的設定が散見されるようになった。その分尖った所がなくなってしまったわけで、そのいずれの要素も中途半端。SF者としては平行世界云々と塔の絡みは突っ込みどころ満載。逆に言うとある程度万人向きな作風になったということで、展開の「お約束」が約束されているわけで…そういった意味で長編としての安心感は見ていて感じた。勿論、どれだけどんでん返しがあるのかと期待をしたが…。多くの設定が隠されていると感じさせてくれる作品ではあるが、ではそれを探求するほどの訴求力があるかと言われれば難しいところ。塔の秘密を、せめてもう少し多く散りばめてくれれば……黙して語らぬ部分が多すぎるのでは、そもそも想像する材料がない。


”食い入るように見る”なんて言葉を実践したのはいつぞやぶりか。RDT261+PS3という再生環境で鑑賞する本作の映像は絶句の一言。常時20Mbps超のビットレートは、一度味わってしまうと二度とDVDを鑑賞できなくなる破壊力がある。いつかは慣れてしまう美しさかもしれないが、では今はその目新しい美しさを味わおう。見慣れた頃に、新海はまた新しい映像を見せてくれる。


ちなみに多少でも絵を描く者の視点で絵を見ると、スカーフや肌の主線の塗りが単調かつ均一過ぎ、緻密な周囲の小道具や背景とのミスマッチが目についた。しかしこれも高解像度ならではの贅沢な悩みだと思うと、途端に視界から消えた。


65点



秒速5センチメートル [Blu-ray]

秒速5センチメートル [Blu-ray]

新海 誠の連作短編。

  • 第一話「桜花抄」

唖然とする美しさ。緻密で細かいディテールではあるが、決して写実的ではないイラストの美。どこを切り取っても一枚絵として見られる。現実よりも美しい現実の光景、と言っても過言ではない。新海も行くところまで行ったかと感じさせるが、キャラが相変わらずで安心(?)した。さすがにマンパワーが足りないのか、絵の動きは大分「雲のむこう、約束の場所」よりも控えめ。作品性もあるのだろうが。
劇中、埼京線宇都宮線が出たところでは思わずニンマリとした。主人公が通ったルートがまさに、自分が数年間毎日乗り続けたコースだからだ。電車を待つとある一瞬のシーンで、電車のドアが開く位置とは違う場所にいる(電車に乗りなれていない)のを見たとき、やはり新海は只者ではないと感じた。宇都宮線に乗って「大宮を過ぎてしばらくすると、あっという間にビルは消え…」という独白がたまらない。新海の出身は長野だそうだが、あの雪の中の電車と主人公の光景は、もしかしたら原風景の一つなのかもしれない。

話は、特筆すべきところはない。叶わないことを予感させるラブストーリー。

  • 第二話「コスモナウト」

冒頭の遠くに月を望むシーンで絶句。近年見た映像作品の中で一番の衝撃を覚えた。神林長平の「猶予の月」のラストを彷彿とさせるシーンであり、本当に見たかった風景の一つだったと感じた。

三作の中では一番好きな物語。ハッピーエンドではないが登場人物が誰も彼もストレートで見ていて気持ちがいい。種子島の野原と風も素晴らしい。ロケットの打ち上げにも背筋が震えた。

「新海が一番描きたかったもの」と銘打っている話だが……これは厳しい。このような方向性に作風が変化していくのだとしたら、もう新海作品は物語としては見られないかもしれない。

この結末をハッピーエンドと感じるほどに俺はまだ年もとっていないし、物事も経験していない。この先ずっと感じられないかもしれないという一種の恐怖感を煽られる。これを「辛い終わり」以外にどう感じろというのか。そう開き直りたいくらいに、何かの試金石として使われているかのような結末だ。この映像と音は、恐ろしい破壊力の「後悔」という二文字の100tハンマーとなって眼前に迫ってくる。


どうでもいいが劇中、シネマディスプレイに向かってコーディングしている主人公の目が心配でたまらない。(初期型ならいいのだが)


75点。



両作品に共通して言えるのは、あまりにも映像のインパクトが強過ぎてまともな事を言えていないということだ。幸い何度も鑑賞に耐えうるような作品(前者は)なので、隅々までじっくりと見てその映像を…やはり映像か、を楽しみたい。
そう、この言葉も共通して言える。

”必見に値”